アフリカの民話
〜タンザニアを中心に〜

タンザニアでは、昔話は今でも本で読むものではなく、誰かが語るのを聞くもの。
だから、必ず語り手と聞き手の掛け合いで始まります。
その合い言葉は地方によって違いがありますが、一般的なのは、語り手が「パウカー」と呼びかけ聞き手が「パカワー」と応えてから話し始めるパターン。意味は、「お話始めるけど、準備はいいかい?」「準備は万端、楽しいお話聞かせてね」といったところのようですが、お話を語るとき以外は使われません。

さあ、今日のお話を始めましょう。



民話18. ザンジバル一の力持ち

民話19. 七色の鳥になった娘  


民話18. ザンジバル一の力持ち


ハポ ザマニザカレ(むかしむかし、あるところに)、力もちの男がおった。
その男は、小さい頃からとにかく力が強く、力比べなら、誰にも負けたことがなかった。
あんまり力が強いので、大人になる頃には、村の誰も男に力比べを挑まなくなり、村一番の力持ちと誰もが認め、尊敬していた。

その村には、井戸がたったひとつしかなくて、村人全員でその井戸を使っていた。
大事な井戸の水を、よそ者に取られないように、村一番の力持ちの男しか持ち上げられない重い重い鉄のふたがはめられていた。

村人は、井戸を使いたい時は、いつもその男に頼んで、重い重い井戸のふたを開けてもらうのだった。
人々は、男が井戸のふたを開けるたびに、ため息をつきながらこう言った。

「本当に、たいしたもんだねえ。こんな重い重い井戸のふたを、一人で開けてしまうんだから。
あんたは、ザンジバル一の力持ちだよ」

男は、そういわれるのが嬉しくて、毎日張り切って井戸のふたをあけていた。
そんなある日、男が、珍しく街に行こうと森を歩いていると、向こうから、よぼよぼのばあさんがやってきた。
ばあさんは、頭と腰にカンガ(布)を巻いていたが、頭に巻いていたカンガが、風で飛ばされて、男の目の前に飛んできた。

ばあさんが、
「すまんけど、わしのカンガを拾って、持ってきておくれ」

と言うので、お安い御用とばかり、男が片手でカンガを拾おうとすると、布でできたカンガが、まるで鉄のように重い。
こんなはずはないと、もう一度力を入れなおし、芋を掘るときのように、両手で思い切りカンガの端を引っ張った。
すると、その拍子にズボッと、自分の両足が地面に埋まってしまった。

その様子を見て、ばあさんが、
「わしのカンガは、まだ拾えないのかい」
と言うので、男は、こんなはずはないと、もっと力をいれてカンガを引っ張ると、ズボズボッと、今度は胸まで埋まってしまった。

ばあさんは、
「いまどきの若者は、力がないのお」
とため息をつくと、片手でひょいとそのカンガを拾って頭に巻いて、そのままよぼよぼ歩いて行った。

一人残された男は、あわてて地面から這い出して、ばあさんの方を振り返ったが、一本道にもかかわらず、ばあさんの姿は、どこにも見えなかった。

男ははっとすると、地面にひれ伏して、こう叫んだ。
「アラーの神よ。ザンジバル一の力持ちともてはやされて、いい気になっていた愚かな私をお許しください。
人間は人間、アラーの神の前ではなにものでもありません」


そのばあさんは、有頂天になっていた男を戒めるために、アラーの神がお遣わしになった天使だったのさ。
アラーは偉大なり。
アラーの存在を忘れて、おごりたかぶる人間は愚か者。

話は、これでおしまい。気に入ったなら持ってきな。気に入らなけりゃ、海に捨てとくれ。



民話19.七色の鳥になった娘  

パウカー(お話始めるよー)

パカワー(はーい)

ザマニザカレ(むかしむかし)、あるところに、仲のいい夫婦がおりました。

この夫婦には、三人の娘がいたのですが、下の二人が、次々にマラリアで死んで、六歳の長女ミザしか残っていませんでした。その上、娘を二人も亡くして悲しんでいた女房まで、マラリアにかかってころりと死んでしまったので、父娘の二人になってしまいました。
 
ミザは、父親のことを思って、
「父さん、さびしかったら、次の奥さんをもらってもいいのよ」
と言いました。

父親は、娘のことを思って、
「いやいや、父さんが結婚したら、お前は継母と暮らすことになる。継母と暮らすのはつらいものだ。父さんにはお前にそんな苦労をかけたくないよ」
と言いました。

それでもいいとミザは言うし、父親自身、やっぱり女房のいない生活はさびしくて仕方なかったので、初めの女房が死んで二ヶ月後に、近所の人がすすめる、顔も見たことのない女性と再婚しました。

二番目の女房は、すぐに子どもに恵まれ、二人続けて女の子を産みました。
二番目の女房は、自分の子が産まれると、夫の連れ子ミザがうとましくなってきて、夫がいないときを見計らって、ミザをこき使い、気に食わないと、むちで叩くようになりました。

女房は、実の娘の髪は毎日梳かしてはきれいに編み上げてやりましたが、ミザの髪は一度も梳いてやったことがなかったので、ミザの髪は爆発したようにもしゃもしゃで、いつもしらみがわいていました。

母親がそんなふうだから、二人の妹達も、大きくなるにつれて、姉さんであるミザをばかにし、さげすむようになりました。

ミザは、学校にも行けず、妹たちが制服を着て学校に行きだしても、ミザだけはぼろぼろのブイブイ(*イスラム教徒の女性が着る黒い服、すっぽりとからだを被う作りになっている)を頭からすっぽり被って、買い物に行かされていました。

森の出会い

ある日、ミザは継母に言われて、森の中でヒナの葉を摘んでいました。
(*ヒナの葉を乾燥させ、粉状にしたものに水を加えると染料となる。ヒナで手足や髪を染めるのは、ザンジバル女性のおしゃれ)

ミザは、いつもぼろぼろのブイブイをすっぽり被っていたのですが、その日は森につくと、まわりには誰もいないので、ブイブイを脱いで、シナモンの木の枝にかけると、のびのびとした気分で、楽しく歌を歌いながらヒナの葉を摘んでいました。
そこへ、狩りに来ていた若者が通りかかり、ミザを見つけました。

黒いブイブイの下には、これまた粗末な継母のお下がりの、サイズの合わない服を着ていたし、本当の母さんが死んでから、何年も梳いてもらったことのない髪は、大きな鳥の巣のようにからまりあい、上を向いて煤けだっていたのですが、若者はそんなことよりも、ミザの美しい顔に釘付けになっていました。

この若者は、大金持ちの息子で、屋敷で毎日たくさんの美しく着飾った女性達に囲まれていたのですが、今目の前にいるミザほど美しい娘は見たことがありませんでした。

若者は、その瞬間に、ミザを妻にすることを決め、馬を下りてミザの前に出て行きました。
一方、ミザは誰もいないと思っていた森の中から突然若者が現れたので、驚いて悲鳴をあげた拍子に、せっかく摘んだヒナを全部落としてしまいました。

若者が、ミザに結婚を申し込もうと一歩近づくと、ミザはもう一度大きな悲鳴をあげて、ブイブイを取るのも忘れてそのまま家まで逃げ帰ってしまいました。

若者は、シナモンの木にかけてあった汚いブイブイをとると、ミザの美しい顔を思い出してそっと顔を近づけました。継母や妹達には臭くてしかたがないと感じるミザのブイブイも、恋する若者には臭く感じることはありません。シナモンの匂いも混じって、若者にはそれが、なんともいい香りに思えました。


汚くて美しい娘

 若者は、屋敷に帰ると、大金持ちの父親に、髪が大きな鳥の巣のように煤けだった汚くて美しい娘を探してほしいと頼んだので、大金持ちは、すぐに街中に立て札を立てました。

その立て札には、
「髪が、大きな鳥のように煤けだった、汚くて美しい娘を求む。
本物なら、息子の嫁にする。
娘の居場所を知らせた者にも、大金を与える」


と書いてあったので、次の日から大金持ちの屋敷には、わざと髪をすすけだたせた娘達でいっぱいになりましたが、若者の探している娘はとうとう現れませんでした。

森のすぐそばに、三人娘がいる家があり、そこの娘達はまだ屋敷に来ていないと教えてくれる人がいたので、若者がさっそくその家に行ってみると、ミザの妹たちだけが髪をわざとすすけだたせて待っていました。

若者は、一目見ただけでミザではないとわかったので、母親に向かって、
「この家にはもう一人娘さんがいると聞いてきたのですが、その娘さんに会わせて下さい」
と言いましたが、継母は、
「この家には娘は二人しかおりません。何かのお間違えでしょう。」
と言いました。

若者はそんなはずはないと、家中をさがしましたが、ミザの姿が見えないので、諦めて帰って行きました。

継母は、大金持ちが、髪が大きな鳥の巣のように煤けだった、汚くて美しい娘を探している、といううわさを聞いたときからミザだとわかっていたので、若者が来る前にミザを森に連れて行き、バオバブの木の洞穴の中に閉じ込めておいたのです。
七色の小鳥

 継母は、若者が帰るとすぐ森に行って、バオバブの木の洞穴の中で泣いていたミザを抱きしめると、やさしく言いました。

「ミザ、怖かったろう。でもね、母さんはお前のことを思ってこうしたんだよ。
お前が森であった若者はひどい女たらしでね、お前と結婚したって、すぐに違う女を探すような奴なのさ。
お前には、母さんがおまえにふさわしい男を見つけてあげるよ。
そんなことより、さあ、家に帰ってたっぷりご飯を食べな。
その後で、母さんがお前の髪を梳いて、きれいに編みこんであげるよ」

ミザは、継母が急に優しく言うので、いぶかしく思いましたが、本当の母さんが死んでから一度も梳いてもらったことのない髪を梳いて、きれいに編みこんでくれると聞いて、嬉しくなりました。

家に帰ると、ミザは、普段なら、にわとりのように、みんなが食べ終わったあとのゴザにこぼれた飯粒を拾って食べるだけだったのに、その日に限って継母から、ミザも妹達と同じゴザの上で、一緒の大皿からピラウを食べるようにと、優しく言われました。

そして、ミザが夢心地で食事をし終わると、継母は優しい声で、ミザを自分の部屋に呼びました。
「さあ、ミザ、母さんの膝の上に頭をお乗せ。母さんが髪をきれいに編んであげるから」
ミザは、うれしくて、どきどきしながら継母の膝に頭を乗せて、目をつぶりました。

継母は、たっぷりココナッツ油を撫で付けると、丁寧に髪を梳かし、しらみをすっかりつぶし終わると、髪を編みこみ始めました。

櫛で、髪に分け目をつけます。
まず一すじめ。
継母は、ミザの髪を分けると、自分の髪の中に隠し持っていた針を取り出して、ミザの地肌にちくりと突き刺しました。

「あっ、痛い」
ミザは小さく悲鳴をあげると、継母は、優しい声で言いました。

「おや、櫛を強く使いすぎたかい?ごめんよ」
継母に優しくそういわれたので、ミザはそのまま我慢しました。

継母は、櫛で二すじめの分け目をつけると、片手でミザの髪を押さえながら、自分の髪の中から二本目の針を取り出して、ミザの地肌にちくりと刺しました。
「あっ、痛い」
ミザはまた小さく悲鳴をあげましたが、継母に優しく謝られて、そのまま我慢しました。

三本目、四本目、・・・継母がミザの頭にちくりと針を刺すたび、不思議なことに針を刺された場所から、違う色の羽が生えてきました。

五本、六本、七本。
継母が七本針を刺し終わると、ミザの体中に羽が生えて、ミザは七色の羽をした美しい鳥になってしまいました。

継母は、鳥になったミザを片手でつかむと、
「お前なんていない方がいいんだよ。どこにでも飛んでおいき」
と言って、窓から放り投げました。
継母は、ムガンガ(呪術師)の所で、人間を鳥に変える針をもらってきていたのでした。


小鳥の歌声
 
七色の美しい鳥になったミザは、泣きながら若者の屋敷に飛んでいったのですが、裏門の門番に捕まえられて、小さなカゴに入れられてしまいました。
ミザは、鳥になってからも、美しい声で毎日歌いました。

門番が、鳥になったミザに餌をやるたびに、ミザはこう歌いました。
♪この粟食べようかしら、やめようかしら ルルルルル〜♪

 ミザの美しい歌声に、門番もつられて歌いました。
♪娘さん、お食べよ、お食べ

♪この豆食べようかしら、やめようかしら ルルルルル〜
♪娘さん、お食べよ、お食べ

 門番がモスクに礼拝に行こうとすると、鳥になったミザはこう歌いました。
♪門番さん、門番さん、私を置いてどこへ行くの?ルルルルル〜

 門番もつられて歌います。
♪モスクに行くのさ。夕方のお祈りにね

♪それじゃあ、あなたの旦那様の息子さんに伝えてね。どうぞ神様からのご加護がありますようにって、七色の小鳥が言っていたと
♪ああ、伝えるよ。伝えるよ

♪だめよ、それじゃあ、あなたは忘れてしまう。神に誓ってと約束して
♪ああ、伝えるよ、伝えるよ。神に誓って伝えるよ

 そうして門番は鳥になったミザと歌で交わした約束を守って、モスクに礼拝に来ている大金持ちの息子に、
「私の飼っている七色の小鳥が、あなたに神様からのご加護がありますようにと言っておりました」
と伝えました。
若者は、怪訝な顔をして門番の前を通り過ぎていきました。

二日めも、三日めも、鳥になったミザは、同じ歌を歌い、門番は歌で交わした約束を守って、若者にミザの言葉を伝えました。初め怪訝な顔をして通り過ぎていた若者も、門番が毎日モスクで同じ挨拶をするので、気になって、七日めの夕方の礼拝の前に、普段通らない裏門に行ってみました。

すると、七色の羽を持つ美しい鳥が、ちょうど例の歌を歌っているところでした。
♪門番さん、門番さん、これからどこに行くの?ルルルルル〜
♪モスクに行くのさ、夕方の礼拝にね

♪それじゃあ、あなたの旦那様の息子さんに伝えてね。どうぞ神様のご加護がありますようにと七色の小鳥が言っていたと
♪ああ伝えるよ、伝えるよ

♪だめよ、それじゃああなたは忘れてしまう。神に誓ってと約束して
♪ああ伝えるよ、伝えるよ。神に誓って伝えるよ

門番はそう歌い終わると、モスクの方に歩いて行きました。
若者は、その歌声を聞いているうちに、思い出していました。森で会った汚くて美しい女が、目の前の小鳥とそっくりな声で歌っていたことを。

若者は、歌いながら七色の小鳥に近づいて、歌で呼びかけました。
♪あなたは、あなたはもしかして、あの日の、すすけだった大きな鳥の巣のような髪の汚くて美しい娘さん?

♪ああ、やっと来てくださったのね
私はミザです。森で会ったとき、逃げていなければ、私はあなたと結婚できていたのに、逃げてしまったばっかりに、針を七本刺されて、小鳥になってしまいました ルルルルル〜

その歌を聴いた若者が、よく七色の小鳥の頭をみてみると、七色の羽に混じって、七本の針が刺さっていました。若者が針を残らず抜くと、七色の小鳥のミザはその場で美しい娘になって、若者の両腕の中にいました。
若者は、もちろんミザと結婚し、大金持ちの父親に言って、ミザの継母を一生牢屋に入れさせました。
 
ミザは、父親だけ屋敷に引き取って、大金持ちになって一生幸せに暮らしましたとさ。

 話は、これでおしまい。気に入ったなら持ってきな。気に入らなけりゃ海に捨てとくれ。




久々の民話更新は、力持ち話と継母話の2編です。

日本にも、力持ちの登場するお話が、各地にたくさんありますが、背は雲を超え、山を持ちあげるほどの力持ちで、津波から人々を守ったなどなど、やはりその力を人のために使うというパターンが多いですが、ザンジバルの力持ちは、人間離れした体格ではなさそうですが、かなり重たい鉄のドアを持ち上げることができたようです。

重たいものの基準が、人間の生きる基本、大切な井戸のふただったというのは、ザンジバルの人にとって、水がどれほど大切かがわかりますね。

継母話も、古今東西に見られます。継母が登場すると聞けば、シンデレラ(灰かぶり姫)、白雪姫などを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

ところで、このお話の主人公ミザの実の姉妹も、実母も、マラリアが原因で死んでいます。
ザンジバルには、21世紀になった今でも、マラリアがはびこり、実生活の中でも、マラリアで親兄弟を亡くした子供達がたくさんいます。
継母話は古今東西多くありますが、実母の死については、たいてい「重い病気で死んでしまいました」と表現されています。

ザンジバルで語られる昔話は、登場人物が、大人でも子供でも、「マラリアで死んだ」と、死因を限定することが多いので、お話がとてもリアルになってきます。

そのリアルさと反対に、お話の中に、歌や問答が出てくると、2回目の繰り返しからは、すぐに話し手と聞き手の掛け合いになってきます。
聞き手が、すぐに歌や問答のフレーズを覚えて、お話の中に参加して盛り上がっていく様子を見るのは、毎回感動です。
そして、やっぱり、民話は、文字ではなく、言葉で語り継がれてきたものなのだなあと思います。
と思いつつ、私はそれを文字にしているのですから、なんだか矛盾してますね。

とにもかくにも、私がスワヒリ語で聞いた民話のぬくもりを、少しでも、日本の皆さんにお伝えできればといいな思っています。

                                                                         島岡 由美子



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