セネネとは、英語で言えば、グラスホッパー、つまり、バッタ。
ブコバでは、このセネネというバッタが、何よりの贈り物であり、愛の証でもあるのです。
セネネが発生するのは年に2回。
電球など光に寄って来る習性を利用して、網を使ってまとめて獲り、羽をむしって調理します。
調理法は、一度塩ゆでして油で揚げる方法と、スモークする方法がありますが、どちらも塩をきかせており、長期の保存が可能で、保存食の1つです。
セネネについては、ブコバに行く前から、話には聞いてはいましたが、まわりに、実際に食べた人はなく、味についての情報がなかったので、バッタを食べるなんてと、ちょっとためらっていたのですが、ブコバでは、誰もが皆、胸を張って「セネネの味は最高だよ」と声を揃えるので、思い切って、バスステーションの屋台で売られていた揚げセネネを食べてみました。
見た目は、確かに羽をむしられたバッタそのものでしたが、苦味もなく、塩味のきいた小エビのから揚げのようで、香ばしくてとってもおいしく、コーヒーや、酒のつまみにぴったりという感じでした。
日本でもイナゴの佃煮を食べたことがありますが、イナゴも佃煮にするよりタンザニア式に、から揚げにした方がおいしいのじゃないかな?とセネネを食べて思いました。
ところで、このセネネ、ただおいしいバッタというだけではありません。
ブコバの人は、このセネネを、愛の証としてとらえているのです。
ブコバでは昔から、セネネ捕りは、女性だけの仕事でした。
女性達は、セネネが発生する季節になると、毎日毎日たくさんセネネを捕って、せっせと羽をむしり、油で揚げたり、スモークしたりして調理すると、そのセネネをバナナの葉できれいに包み、愛する男性に愛の証として差し出すのが、ブコバでの風習です。
そのときだけは、女性から男性に愛の告白ができるので、女性は、この人と結婚できますようにと願いをこめて、セネネを渡します。
また、付き合っている女性から、この愛のプレゼントが届かなくなったら、2人の愛は終りという証明でもあり、このセネネのプレゼントは、日本の男性が、バレンタインのチョコレートがもらえるかもらえないかでやきもきする以上に、大きな問題のようです。
ブコバの男性に、「結婚前にセネネをもらいましたか?」と聞いてみると、一様に「セネネももらわんで、どうやって結婚するんだね?」という答えが返ってきました。
また、セネネの量、調理法、味付けだけでなく、バナナの葉でいかに美しく包むか、といったことにも愛情が表れるとかで、セネネは、その女性が、相手の男性をいかに愛しているかを測るバロメーターなのだそうです。
また、ブコバの女性は、結婚してからも、もちろん毎年、せっせとセネネを捕って、愛する夫や家族達に食べさせ、セネネで客をもてなし、遠くに住む家族や友人に贈ります。
飛行機で隣に座ったブコバ出身者、ダル・エス・サラームで働くルタショビア氏も、1年ぶりの故郷訪問で、お母さんから大きな袋いっぱいのセネネを手渡されて、とても嬉しそうでした。
ちなみに、彼は違う地方の女性と結婚したので、妻からはセネネがもらえず、彼にとってセネネは、なんとも懐かしい「おふくろの味」なのだそうです。
今でこそ、女性たちもセネネを食べることができますが、少し前までは、ブコバの女性は、セネネを食べることを禁じられていました。
とにかくセネネを捕り、うまく調理して愛する男性に贈ることが、ブコバの女性の定めだったそうです。
でも、その理由が、「女性にセネネのうまさを知られると、調理したそばから全部食べてしまい、男性陣の口に回ってこなくなってしまうから」とは、なんとも勝手な理由だと思いませんか?
それに、今は、昔のように禁じられてこそいませんが、それでもやっぱり、セネネを人前でバクバク食べるのは、ブコバ女性としては失格なんですって。
日本でも、その昔、イナゴの佃煮が愛の証だった時代もあったか否かは、定かではありませんが、ブコバでは、今も昔も、このセネネというバッタが愛の証です。
ブコバの女性達が、捕獲から料理まで、手をかけ閑をかけて作った、愛情たっぷりのセネネが、今年も、バナナの葉で美しく包まれて、ブコバの男性の手に渡り、そして、男性は女性の変らぬ愛情に満足しながら、セネネをつまみにコーヒーや酒を楽しんでいることでしょう。
ところで、あなたなら、愛の証として、彼(彼女)に、どんな贈り物をしますか?
あなたの愛が、彼(彼女)にしっかり伝わることを、タンザニアの真っ青な空の下より祈っています。
GOOD LUCK!!