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カメレオンを食ったカエルを食った鳥を食って死んだヘビ

むかしむかし、あるところに腹をすかせたカエルがおった。
カエルは、葉っぱの上で虫捕りに夢中になっていたカメレオンを見つけると、ぴょんとジャンプしてぱくりと捕まえ、ゲロゲロッと呑み込んでしまった。

でも、カメレオンをねらっていたのはカエルだけじゃなかった。
空を飛んでいた鳥も、目ざとくカメレオンを見つけていて、ピュッと急降下してきたところだった。
タッチの差で地面からジャンプしたカエルに、カメレオンを取られてしまったので、鳥は悔しくて悔しくて、もう一回旋回すると、カメレオンを食ってゲロゲロと喉を鳴らしているカエルめがけて急降下し、カメレオンを食ったカエルを見事に捕まえると、木の上に戻ってうまそうに飲み込んだ。

でも、カメレオンを狙っていたのは、カエルと鳥だけじゃなかった。
足のないヘビも、するすると木を伝って、音も立てずにカメレオンのそばに行き、さあ飲み込もうとした瞬間に、カエルに先を越され、おまけに今度は、そのカエルを鳥に持っていかれてしまったのだった。

ヘビは悔しくて悔しくて、カメレオンを食ったカエルを食った鳥が止まっている木に登ると、音も立てずに鳥に近づき、あんぐり口をあけてぺろりとひとのみすると、満足そうに舌をちろちろさせながら、木を降りていった。

でも、カメレオンを食ったカエルを食った鳥を食ったヘビは、木を降りている頃から苦しみだし、木を降りきる頃には、ただの縄のようになって死んでしまった。

しばらくすると、カメレオンは、自分を食ったカエルを食った鳥を食って死んだへびの口からのっそり這い出して、いつものように、のんびりゆっくり木をのぼっていったとさ。

カメレオンは、きれいな色で惑わせて、のんきな動きで警戒を解かせ、いつもきょろきょろして臆病で弱そうに見えるけど、本当は悪魔の使い。

のんびりした動きも美しい色も、臆病そうな目も、みんなうそっぱち。本当は体に毒を持ち、自分が食われたら、相手をその毒で殺してしまう。普段隠してある長い舌は毒矢の代わり。好物の虫を捕る為だけじゃなく、近づいてきた動物の目を狙ってぴゅっと飛ばして相手の目をつぶしてしまう。そして、その間に色を変えながら逃げてしまうのさ。

だから、カメレオンがいたら絶対近づいちゃいけないよ。

カメレオンの話は、これで、おしまい。
(語り手 ザンジバルのロバートさん)

以上は、私がザンジバルで聞いたお話ですが、文献によると、
チャドのサラ族には、
「カメレオンが人間に渡すべき使信が灰色とかげの妨害によって届かなかったために、人間の死はさけられない事実となった」
ケニアのキクユ族には、
「人間は死んでも生き返ることができたのだが、神はそのことを人間に知らせるため、カメレオンを使いに出した。カメレオンがのんびりしている間に、つぐみが人間に嘘を教えたので、人間は生き返ることができなくなった」
ナイジェリアのジュクン族には、
「ある日、ウサギは木の上にうまそうな果実を見つけたが、ヘビがとぐろを巻いていたので、鶏を騙して木に登らせると、ヘビは鶏を食ってしまった。次に出あったカメレオンは、木に登ってヘビを何の苦もなく殺すと、果実をもいで、ウサギに渡してやった。ウサギは腹いっぱいこの実を食べると、残りを人間にやった。人々は、これがあんまりうまかったので、種を植えた。これがパパイヤの樹の栽培の起こりである」
といった昔話がありますが、前の二つは、役目を果たしそこなったものの、神聖なる神の使い。
最後の話は、へびを殺してうさぎにパパイヤを渡すという具合に、3話とも善玉の役で登場しています。

しかし、ザンジバルで語られているカメレオンは、体内に持つ毒で、人やへびを殺してしまう悪魔っぽい役として登場していますし、ザンジバルの人は大抵の人が、カメレオンは毒を持っていると信じ、恐れています。(もちろん、実際にはカメレオンには毒はないのですが)
同じ動物をテーマにしたお話でも、その国や地方によってずいぶんとらえ方が違うものですね。

ちなみに、「カメレオンは、周囲の状況や感情によりすばやく色を変える」と大辞林に書いてあり、それを読んだときは「カメレオンの感情って・・・?」と大いに疑問だったのですが、自分でカメレオンを飼ってみると、カメレオンって感情大あり動物だとわかりました。

特に自分のテリトリーに同じカメレオンが侵入してくると、周りの色に関係なく、真っ黒になってほっぺたや体を思い切り膨らませて自己主張するのには驚きました。でも、そうやってむきになって怒っている時は、見事なほど真っ黒で、保護色どころか「カメレオンここにあり!」と周りに宣言しているようなものなので、周りの色を忘れるほど感情的に色を変えていたら、その間に鳥などの天敵に見つけられてしまうのではないかと、こっちがはらはらしてしまうほどです。

「カメレオンは感情的な動物なり」ということをテーマにしたお話はまだ聞いたことがありませんが、我が家のカメレオン達を見ていると、そんなお話が浮かんできてしまいます。
それにしても、こんなことまで載っている大辞林はすごいと、あらためて我が辞書を見直したことでした。

そうそう、カメレオン座っていう星座もあるそうですよ。
天の南極近くの星座で、4月下旬の宵に南中するとのことですが、残念ながら日本からは見えないとのこと。
一体どんな形なのでしょうね。
さすがにそこまでは大辞林にも載っていないので、誰かご存知の方がいたら、ぜひ教えてください。