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ザンジバル一の力持ち

ハポ ザマニザカレ(むかしむかし、あるところに)、力もちの男がおった。
その男は、小さい頃からとにかく力が強く、力比べなら、誰にも負けたことがなかった。
あんまり力が強いので、大人になる頃には、村の誰も男に力比べを挑まなくなり、村一番の力持ちと誰もが認め、尊敬していた。

その村には、井戸がたったひとつしかなくて、村人全員でその井戸を使っていた。
大事な井戸の水を、よそ者に取られないように、村一番の力持ちの男しか持ち上げられない重い重い鉄のふたがはめられていた。

村人は、井戸を使いたい時は、いつもその男に頼んで、重い重い井戸のふたを開けてもらうのだった。
人々は、男が井戸のふたを開けるたびに、ため息をつきながらこう言った。

「本当に、たいしたもんだねえ。こんな重い重い井戸のふたを、一人で開けてしまうんだから。
あんたは、ザンジバル一の力持ちだよ」

男は、そういわれるのが嬉しくて、毎日張り切って井戸のふたをあけていた。
そんなある日、男が、珍しく街に行こうと森を歩いていると、向こうから、よぼよぼのばあさんがやってきた。
ばあさんは、頭と腰にカンガ(布)を巻いていたが、頭に巻いていたカンガが、風で飛ばされて、男の目の前に飛んできた。

ばあさんが、
「すまんけど、わしのカンガを拾って、持ってきておくれ」

と言うので、お安い御用とばかり、男が片手でカンガを拾おうとすると、布でできたカンガが、まるで鉄のように重い。
こんなはずはないと、もう一度力を入れなおし、芋を掘るときのように、両手で思い切りカンガの端を引っ張った。
すると、その拍子にズボッと、自分の両足が地面に埋まってしまった。

その様子を見て、ばあさんが、
「わしのカンガは、まだ拾えないのかい」
と言うので、男は、こんなはずはないと、もっと力をいれてカンガを引っ張ると、ズボズボッと、今度は胸まで埋まってしまった。

ばあさんは、
「いまどきの若者は、力がないのお」
とため息をつくと、片手でひょいとそのカンガを拾って頭に巻いて、そのままよぼよぼ歩いて行った。

一人残された男は、あわてて地面から這い出して、ばあさんの方を振り返ったが、一本道にもかかわらず、ばあさんの姿は、どこにも見えなかった。

男ははっとすると、地面にひれ伏して、こう叫んだ。
「アラーの神よ。ザンジバル一の力持ちともてはやされて、いい気になっていた愚かな私をお許しください。
人間は人間、アラーの神の前ではなにものでもありません」

そのばあさんは、有頂天になっていた男を戒めるために、アラーの神がお遣わしになった天使だったのさ。
アラーは偉大なり。
アラーの存在を忘れて、おごりたかぶる人間は愚か者。

話は、これでおしまい。気に入ったなら持ってきな。気に入らなけりゃ、海に捨てとくれ。