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チャリンダさん 安らかに 天才ティンガティンガ・アーティスト 『しんぞうとひげ』の挿絵画家

とても悲しいお知らせです。
ムゼー・チャリンダこと、ティンガティンガ・アーティストの重鎮、モハメッド ワシア チャリンダさんが、2021年8月11日の朝に、亡くなられました。

1974年からティンガティンガアートを描き始めて以来、この道一筋、長年ティンガティンガ村の屋台骨を担ってきた、1947年生まれの古参アーティスト。
とても味があって、誰にもまねのできない、ユニークで独創的な絵を描く、天才アーティストでした

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ティンガティンガ・アート、初期の頃の記録写真(1970年代) *アーティストたちは、バオバブの木の下に集まって、絵を描いていたそうです。

自宅療養中に、容体が急変
チャリンダさんは、私たち島岡が、今年の横浜・名古屋での自社展示会(GW~5月)を終えて、6月8日にティンガティンガ・アート村に行った時は、いつもの場所で、にこにこ楽しそうに絵を描いていました。

その後、体調が悪くなり、自宅療養をしておられましたが、7月に入ってだいぶ回復して、家で絵が描けるようになったと聞いていました。

実は、チャリンダさんは、さまざまな病気を抱えていて、もう10年以上も、静養したり、復帰したりを繰り返していたのです。

チャリンダさんの家族が持ってきてくれた絵を見ながら、またティンガティンガ・アート村(工房)に来て、絵が描けるぐらい元気になれますようにと祈っていましたが、それは叶わず、8月10日の夜、急に容体が悪くなって、翌朝病院に運び込んだ時には すでに手遅れで、家族が受付の手続きをしている最中に亡くなられたそうです。

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チャリンダさんのいないティンガティンガ村
葬儀が終わってからも、チャリンダさん定位置には、机も椅子も、道具箱もそのままで、机には最後の作品が置いてありました。
アーティストたちもみんな ムゼーチャリンダの死を悼み、この机を見るとムゼーチャリンダを思い出すと、口々に言っていました。
私もあらためて、ここに、チャリンダさんが戻ってくることはないということを実感し、とても寂しかったです。

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(2021年8月14日撮影)

***思い出******
チャリンダさんは、いつも、手も服もペンキだらけになりながら、ユニークな絵を、楽しそうに描いていました。

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ちなみに、私は、前々から、チャリンダさんは、天才アーティスト!だと思っておりまして、「これでいいのだ!」という天才らしい雰囲気を醸し出しながら、ペンキだらけの服で、楽しそうに絵を描いている姿が、実にかっこよかったのです。

***代表作****
そんなチャリンダさんは、『村の生活』 『奴隷船』『シャターニ』『都会娘の見る夢は』『キリスト誕生』・・・などなど、代表作をあげればきりがないほど、多くの傑作を生みだしました。
「ネルソン・マンデラに捧ぐ」というテーマで開催したティンガティンガ展には、『レインボーネーション』の大作を描き、「現代の絵巻物のよう」と評されました。

代表作の1つ、「奴隷貿易」

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アフリカの奴隷の歴史をダイナミックに、それでいてティンガティンガらしくユーモラスに描きあげたチャリンダさんならではの作品。
チャリンダさんは、「この世から差別をなくすためには、差別の歴史をふまえて、二度としないとみんなで思いあうこと」
という思いをこの絵にこめていました。
過去の負の歴史に眼を背けることなく、かつ、平和に争うことなく今を生きるためにも、ぜひ、みなさんに観ていただきたい作品です。

若い娘の頭の中が透けていて、ちょっとどきっとするこの絵は、チャリンダさん得意のモチーフ、「望郷~都会に出た娘の見る夢は~」

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この作品を描きながら、チャリンダさんが言った
「はなれていたって、親子の情愛は、万国共通だよ」
の言葉にじんとしたのを思い出します。

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故郷のおはなしを愛したチャリンダさん
チャリンダさんは、こうした素晴らしいティンガティンガ作品を発表し続ける一方で、タンザニアの民話、むかしばなしをこよなく愛していて、自分でも語り部として、近所の子供たちにお話を聞かせていました。

ある日、チャリンダさんが、
「わしは、いつか、故郷ナカパニャ村のお話で、ティンガティンガの絵をつけた本を作るのが夢なんだよ」
と語ってくれたことがありました。

実は、ちょうどそのころ、私も、たくさん集めたアフリカの民話に、ティンガティンガの挿絵をつけて本にしたいなと思い始めた頃でしたので、それは、2人の思いが一致した瞬間でした。

そして、次に会ったときに、チャリンダさんは、誰にも見せたことのない「おはなしノート」をみせてくれたんです。
そこには、シモンジャやら、しゃれこうべやら、シャターニなどのスケッチがいっぱい描いてありました。

そのスケッチにまつわるお話を語ってもらったのですが、チャリンダさんが語る、ナカパニャ村(タンザニア内陸部)のお話は、私が集めたザンジバルのお話とはまたテイストが違っているのがあって、とっても新鮮でした。

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また別の日には、私の集めた民話をチャリンダさんに伝えました。
チャリンダさんは、私のへたくそなスワヒリ語でのお話を、にこにこして楽しそうにきいてくれて、ところどころで、「グフフッ、グフフッ」って笑ってました。
そして、2人で、どのお話を掲載するかを決めて、1話1話に、すばらしい挿絵を描いてくれたのです。

その時以来、チャリンダさんは、私のアフリカの民話仲間であり、ティンガティンガ書籍の面での同志でした。

一緒に、3冊の民話の本を刊行
そして、その後、チャリンダさんと、
『アフリカの民話集(バラカ)』、
『絵本しんぞうとひげ(ポプラ社)』 
『アフリカの民話集しあわせのなる木(未来社)』 と、3冊の本を出版することができ、それ以外にも、アフリカの民話の連載を長く続けてこられたのは、私にとって本当に幸せなことでした。この(アフリカの民話連載は、100回を越した現在も続いています)

最初の民話集では、天才アーティストのチャリンダさん以外、絶対描けなかっただろうと思われる挿絵のオンパレードで、『シャターニにさらわれた娘』や、『笑うしゃれこうべ』では、あまりの怖さに、泣く子がいないかとちょっと心配になるほどの迫力でしたし、シモンジャ(ジニ=妖怪)の絵には、は大笑いしました!

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民話集に載っているお話を、アーティストたちに語っているチャリンダさん

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『おしゃれになりたかったカエル』の挿絵を描くチャリンダさん。

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一緒に作った、最初の『アフリカの民話集』をもって。

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この民話集から、「しんぞうとひげ」のお話が、絵本になりました。

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これは、お話自体とってもふしぎ~な内容で、チャリンダさんの描いた「心臓」と「髭」のキャラクターも、きもかわ系なのですが、この絵本が、日本の子どもたちのハートを射止め、厚生労働省 推薦児童福祉文化財に選ばれ、その喜びを分かち合ったのもよき思い出です。

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折り紙のネックレス(絵本を読んだ、日本の小学生からのプレゼント)をしているのが、チャリンダさん。

チャリンダさんとの、最後の思い出
私が今年の6月、ティンガティンガ村で会ったとき、たまたま、3冊目の本「アフリカの民話集 しあわせのなる木」を持っていたので、チャリンダさんにその本を見せて、いろいろ思い出話をしたのが、最後になってしまいました。

この民話集は、チャリンダさんだけでなく、9人のアーティストに挿絵を描いてもらいましたが、

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左から、ガヨ・ムスターファ・サイディ・チャリンダ・ヤフィドゥ・ヘレナ・アブダラ・ムブカ・アバース。

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表紙は、チャリンダさんのこの絵です。

チャリンダさんは、「おお、なつかしいな~」
と、嬉しそうにページをめくって、この民話集で一番好きな話は、
「ムニャパとチ~クエペが出てくるお話だよ」
って、教えてくれました。

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元気そうに見えたので、この日が最後になるとは、思ってもいませんでした。

「歌うシャターニ」の挿絵を見つけて、ストーリーを語りだしてくれたのですが、長くなりそうだったので、私は、最後まで聞かないで、途中で、「うんうん、ありがとうね」 ってさえぎってしまいました。
そのとき、チャリンダさんが、
「ありがとうよ」
って言いながらも、話したりなそうだったのが、今になると、心残りです。

でも、チャリンダさんとの最後の場面が、一緒に作った民話集をめくりながらのひと時だったというのは、私にとって『偶然ではなく必然』だったと感じています。
(しかも、その日に限って、私は民話集を持っていたのですから)

***感謝の言葉***
チャリンダさん、長い間、ありがとうございました。
どうぞ安らかにお眠りください。

バラカ一同、これからも、チャリンダさんというすばらしいアーティストがいたことを伝えながら、ティンガティンガ・アートを日本中に広めるべくがんばっていきます。

そして私も、チャリンダさんの愛したタンザニアの民話を、これからも掘り起こし、日本の皆さんに伝えていきますので、どうか空の上から、見守っていてください。

*****日本の皆様へ*****

チャリンダさんという、天才肌のすばらしいティンガティンガ・アーティストがいたことを、覚えていていただけたら幸いです。
    

                           島岡由美子

☆チャリンダさんのティンガティンガ作品は、こちらから鑑賞できます。
☆アフリカの民話本は、こちら