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帆船ダウはニワトリから

きょうは、タンザニアで、今も現役で活躍している帆船ダウについてのお話です。 

インド洋に浮かぶ島、ザンジバルはもちろん、沿岸地域のダル・エス・サラーム、タンガ、バガモヨなどの港町は、タンザニアでの漁業、貿易の拠点です。大型の鉄の船ももちろん出入りし、時には世界一周の大型客船も帰港する中、今でも丸太をくりぬいて作るカヌーや、木造帆船ダウが、現役ばりばりで活躍しています。

この木造帆船ダウは、アラブ独特の木造船で、紀元前の昔からアラブ人たちはこのダウ船を操り、季節風を利用して、インド洋を縦横無尽に操り、「海のシルクロード」とも呼ばれる貿易ルートを開発してきました。アフリカ沿岸の多くに、今もこのダウ船が見られるのは、アラブ商人の通った名残です。

もちろん、アラブ人のおこなったアフリカにおける貿易とは、北アフリカの金銀を買い叩き、東アフリカの象牙、サイの角を乱獲しただけでなく、アフリカ人を奴隷として自国やヨーロッパ、アメリカに売り払うなど、貿易とは名ばかりの植民地貿易そのものだったことは、説明するまでもないでしょう。

何はともあれ、21世紀を目前にした今も、時代の名残とも言うべき木造帆船ダウが、アフリカの各地でアフリカ人職人の手で受け継がれながら、生活の中で活躍し続けているのは、皮肉といえば皮肉ですが、アフリカの人々は、そんな歴史よりも、自分達で守ってきた造船技術に誇りを持ち、帆の代わりに船外エンジンや船内エンジン搭載にしたり、帆とエンジン併用船にしたり、がんこに昔ながらの帆船一筋と差はあっても、伝統ある木造船ダウを愛し、今もあちこちで新しいダウ船が職人達の手作業で造られています。

造船所は、どこにでもあります。マンゴーの木の下、バオバブの木の下など、海のそばに適当な日陰さえあれば、船職人はそこを作業所にしてしまいます。炎天下でも、日陰に入れば何とか作業はできますから。

贅肉のない黒い肌にいつも美しい汗を光らせながら、なたをふるい、のこぎりをあてる船大工アブダラは49歳。9歳の時から船大工だった祖父に仕込まれ、この道一筋40年、ザンジバルきっての船大工です。

アブダラが仕事を始めると、見物人の男達が集まってきて、そこらの切り株や石の上に座り、彼の仕事を眺め、おしゃべりを楽しんでいます。見物人は、漁師だけでなく、仕事のないヒマな人々。

タンザニアには働きたくても仕事のない人が多く、娯楽もほとんどないので、人々は、誰から何かを始めると、そこに集まり、ただただ黙って眺めていたり、わいわいとおしゃべりを楽しんだりしているのです。

きょうは、大工職人アブダラが、自分のおじいさんから聞いたというとっておきの話をしてくれました。

「ザマニ ザ カレ(昔むかし)、あるところにヌフというアラブ人がおったとさ。

ヌフが生まれたときにはまだこの世に海がなく、人間はどこにでも歩いて行くことができた。
ある日ヌフの住んでいたところに三日三晩大雨が降り、4日目の朝、やっと晴れたので、ヌフが外に出てみると、大きな大きな虹が出ていただけでなく、とても人間の力では渡れないくらい大きな大きな水溜りができていた。
この水溜りの水は大きくて深いだけでなく、とっても塩辛かった。
とにかくとても人間の力では渡ることができない。
人々が途方にくれていたある日、ヌフにアラーの神からのお告げが下った。

「ヌフ、お前にはこの大きな塩辛い水溜り、海を渡る道具船を造る才能を与えよう」

しかし、ヌフには、船という言葉も海という言葉も初めてで、どうしていいかさっぱりわからない。
ヌフは困って神に一心に祈りを捧げた。

「偉大なるアラーよ。船とは一体どんなものですか?
 私はどうやったら船を造ることができるのですか? どうか教えて下さい」
すると、再びアラーの声が、ヌフの心に響いてきた。

「にわとりを一羽屠り、再び祈れ。されば、船というものがお前にわかるだろう」

ヌフは早速にわとりを一羽、神の名の元に屠り、祈りを捧げながら解体していった。
首を切り取り、血を抜き取った後、普段どおり、羽を切り取り、胸の部分から真っ二つに切断したところで、ヌフははっとひらめき、切断されたにわとりの骨組みをじっと見つめていた。

にわとりの背骨、あばら骨、首の骨、翼・・・。

翌日から、丸1週間、ヌフは不眠不休で丸太を削り、組み合わせ、とうとうたった一人で船というものを造った。

ヌフが造った船というものを海に浮かべてみると、ちゃんと浮いている。
人々が嬉々として船に乗り込んでも、船は沈まず、三角の帆に風が当たるとするすると動き出した。

すべては、神の言われるとおりだった。
にわとりを見ていたら、ヌフにはちゃんとわかったんだ。
にわとりの骨組みと同じように木を組み合わせていけば、船というものができるということがね。

だから今でも、船の構造は、にわとりの骨組みと一緒さ。
にわとりの背骨がムククー(船の土台になる一番下の太い柱)、あばら骨がマタルマ(船のあばら骨にあたる部分の湾曲した木)、首の骨がファシーネ(船首柱)、尾がスカニ(舵)、そして翼がタンガ(帆)なのさ。

神がヌフに与えてくださった船造りの才能を、今でもわしら船大工が受け継いで、大切に守っているのさ。神は、誰にでも何かしらその人にしかない才能を与えて下さっている。商売の才能を持って生まれてくる人、家畜飼育に長けている人、学校の勉強に秀でている人、中には動物の声を聞き分ける才能を与えられた人までいる。

わしには、船大工の創始者ヌフのように、船という道具を考え出す才能はないが、ヌフが地上に残していってくれた船造りの技術を守り、船を造り出す力を神が与えてくださったのさ。

わしは、そのことを心から感謝しているよ。わしは、神から与えられたこの仕事をしながら生き、結婚し、家族を作り、そして死んでいく。まったく素晴らしい人生さ」

神から与えられた才能・・・ザンジバルの人と話していると、よくこの言葉に行き当たります。あなたは、自分に与えられた才能を、もう見つけることができましたか?