「積ん読(つんどく)ってどういうこと?」
と、友人に聞いたのは、この本の書名を初めてみたときでした。
日本を離れて長いせいか、「つんどく=積ん読」という言葉を聞いたことがなかったのです。
友人が、「とりあえず読もうと思う本を積んでおいて、その中から読むことよ」
って教えてくれて、納得しました。
それなら、子ども時代から、おなじみの風景です。
両親ともに本好きだったので、いつも家の中に本があって、まだ読んでいない本が、積まれていました。
(読まれると、本棚にしまわれていくのですが)
そして、私も読もうと思った本、一冊にしておけばいいのに、いつもとりあえず数冊は、いつも枕元に積んでしまっています。
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そんな面白い言葉が書名になった
[ときには 積ん読の日々]は、
書名の通り、肩ひじ張らずに読めるエッセイ集でした。
著者 吉上恭太さんは、野球雑誌の編集から始まって、様々な雑誌の編集のほか、絵本の翻訳もされる一方、ご自身でギターも弾いて音楽活動もされているという、一人で何人分もの人生を生きておられる方。
なので、エッセイのテーマや舞台も多岐にわたって、読者が、筆者のかかわる様々な世界を垣間見ることができて、とても面白いのです。
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<人生の目的は、ビートルズになること!>
1957年生まれの著者が、小6で、生まれて初めてビートルズのアルバムをご両親からプレゼントされ、一曲目の「シー・ラヴズ・ユー」のレコードに針を落とした瞬間に人生が変わったそうです。
・・・「シ、ロッチュー、イエー、イエー、イエー」というジョン、ポール、ジョージのコーラスが流れると。体中に電流が走って、いつの間にかソファの上に立ち上がっていた。
・・・その日から、ぼくの人生の目的は、「ビートルズになること」になった。
ビートルズ音楽が国境を越えて、外国人(日本人)の、まだ小学生だった男の子の人生をかえてしまったという事実が衝撃的でした。
きっとこの時代に、ビートルズによって人生がかわった人は、国籍を問わず世界中に大勢いるのでしょうね。
(私はビートルズ世代ではなく、フォーク、カーペンターズがオンタイムだった世代で、「ビートルズは教えてくれた」と聞くと、吉田拓郎の歌が浮かびます)
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筆者はこの後、ビートルズになるために、ギターを習うと同時に、革ジャン(実はビニール製)を着て、リーゼントにサングラスで決めたのはいいけれど、
「鏡に映った自分の姿があまりにも間が抜けていてがく然とした。・・・人生最初の挫折である。・・・」
という箇所があったのですが、ここでは、クスッとしてしまいました。
このクスッは、共感の笑いで、実は、私自身も似たような経験があったのです。
結婚して初めてアフリカに来た時(最初に着いたのはケニアでした)夫とおそろいの黒い革ジャンにジーンズをはき、サングラスをはめて、ナイロビの町を歩いていました。
自分では、革ジャンが似合う!と思っていたのですが、それから二十年ぐらい経って、そのころにケニアで会った人と日本で再会したときに、私たち夫婦が、当時おそろいの革ジャン姿だったという話が出て、
「今だから言うけど、あなたの方は、全然似合ってなかったよ」
と言われて、
「え~、そうだったんだ!」
ってがっかりしたことがよみがえり、この本の著者の吉上さんは、自分ですぐに似合ってないことに気がついてよかったねって感じてのクスッだったというわけです(笑)
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まだパソコンのない時代の本作りのエピソードは、今では驚きの手作業が満載で、文字通りの手仕事、職人技で成り立っていたことも多かったことを知ることができたのも面白かったです。
そういえば、私も最初に出版した「我が志アフリカにあり」の原稿を書き始めた頃は、まだ手書きで書いていたなとなつかしく思い出しました。
そんなわけで、今日の本の記念写真は、こうなりました。
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筆者の児童書の翻訳家としてのエピソードも、興味津々で読み進めました。
絵本「ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ」についてのかいつまんだ説明を読んだだけでも、かいぶつくんの孤独が伝わってくるようで、読んでみたくなりましたし、
絵本「ちゃんと食べなさい」から始まった、主人公デイジーちゃんの本が、絵本から童話となり、「デイジーのこまっちゃう毎日」としてシリーズ化する中で、翻訳家としてデイジーちゃんの成長する姿をあたたかく見守る心を感じてほのぼのした気持ちになりました。
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この「ときには 積ん読の日々」には、たくさんのエッセイ(なんと40篇)がつまっていて、どのエッセイにも必ず、人、音楽、本と分野は違っても、その出会いが書かれていて、出会いって大切だなって感じる本でした。
私も、この本に出会えてよかったです!
読み始める前に、しばらく積んどいたのですが、読了したので、本棚に移動。
さあ、次は、積んである中の、どの本を読もうかな☆
島岡由美子
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書名*ときには積ん読の日々
著者名*吉上恭太
出版元*トマソン社
~50歳から歌いはじめたミュージシャン、吉上恭太。生業は翻訳家、これまでに雑誌社や児童書版元で働いたり、フリーのライターとしてさまざまな仕事をしたりしてきたなかで出会った人たちのこと、立ち止まって考えてきたこと、つねに傍らにあったギターと音楽のことなどを、飾らない人柄そのままの筆致でつづるエッセイ集~
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