タンザニア便り '01年9月

*この便りはトロワ・タンザニアスタッフのMUNAWARさんより隔週(3日と17日)で送られてきます。
MUNAWARさんはザンジバルに住む30代の女性です。MUNAWARさんへのメールは
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便り36「バナナ・ア・ラ・カルト」(2001.9.3)
便り37「ブコバ特産、干草製床用カーペット」(2001.9.17)



便り36「バナナ・ア・ラ・カルト」(2001.9.3)
ジャンボ!アフリカフェフレンドの皆さん、お元気ですか?
日本は夏休みも終わり、そろそろ涼しい秋の風が吹きはじめた頃でしょうか?
ザンジバルは、風のシーズン。この季節の主役、ウペポこと風が、毎日ビュービュー音を立てながら、盛大に砂埃を巻き上げています。この時期は、空気が乾燥するため、髪や肌がかさつきがち。だからザンジバルの女性たちは、この季節は特に念入りに、ココナッツオイルを髪や体にぬりこんでいます。
さて、今日は、便り26「びっくりバナナ大賞」に続いて、バナナの話をしましょう
アフリカフェの故郷ブコバは、コーヒーと並んで、バナナの名産地でもあり、ありとあらゆるところにバナナが生えています。また、このバナナは食用としてのほかに、デリケートなコーヒーの木を守るための日よけ用、シェイドツリーとしての役割りも果たしているので、ブコバにおいてバナナは、一石二鳥の植物として欠かすことのできない存在です。
タンザニアの主食は、本土ではウガリ(とうもろこしの粉をゆがいて練ったもの)、ザンジバルでは米ですが、ブコバではバナナ。バナナをゆでてつぶした、マトケという料理をほとんど毎日食べていて、ウガリはごくたまに、米を使ったピラウなど、年に2、3回、特別な日にしか食べないそうです。
ブコバのマトケの特徴は、豆も一緒に煮込むこと。豆がないマッシュバナナは普通のマトケ、豆が入って初めて「ブコバのマトケ」になるそうです。そして、出来上がった豆入りマトケを、皿ではなく、美しい緑のバナナの葉の上に乗せてゴザの上に置き、肉、玉葱、トマト、などと煮込んだシチューをかけて、皆で囲んで手で食べるのが、本当のブコバスタイル。
バナナの葉は、大きく平べったく、なめらか、かつ肉厚で、見た目も美しく、汁気の多い料理を乗せてもOK、もちろん食べ終わったら、そのまま庭に捨ててしまえばいいので、洗う必要もないという、重宝この上ない天然皿。
私も、お客様が来て、食卓をちょっと演出したい時など、このバナナの葉がかかせません。パパイヤ、パンの木など、いろいろな葉も使ってみましたが、バナナの葉とめぐりあってからは、もっぱらバナナ党です。
ブコバでは、皿だけでなく、あらゆる物を包む包装紙として、また、強い繊維を利用したバナナ縄など、生活のあらゆるところで、天然バナナ製品が活躍しています。
日本の人は、料理用バナナに馴染みがないと思いますが、普段皆さんが食べている甘い生食用バナナではなく、甘味のない料理用バナナは、皮を剥いて、芋のようにゆでてマッシュバナナにしたり、焼きバナナや揚げバナナにしたりすると、とてもおいしいものなんですよ。特に、焼きたてのバナナは、中がほくほくしていて、これぞまさしく芋感覚、バナナ芋とでも呼びたくなるような食感です。
さて、このバナナ、栽培法はいたって簡単、親株の茎の根っ子のわきから、にょこにょこと竹の子のように、新芽が出てくるので、それを上手に掘り出し、耕した土に定植すれば、どの種類も1年半から2年の間に、立派なバナナが実ります。
実を付け終わった親株はそのまま枯死するので、実を付け終わった株は、枯死を待たずに、根元から切り落とされます。しかし、そのときには、同じ株の根元から繁殖した子供たちが育っており、子株が伸びて実を生らせ、またその子供の根元からは孫たちが、という具合にどんどん続いていくので、初めの親株がうまく育てば、あとは何十年も安泰というわけです。
コーヒーのように手間をかけなくても、一株からどんどん繁殖していき、季節を問わず、育った順に実をつけていくバナナは、農民にとって願ってもない条件の作物です。でもそれは、バナナは誰にでも簡単に栽培できるということですから、必然的にバナナの単価は安くなり、けして高収入にはつながりません。だから、ブコバの人は、収入源としては、手間のかかるコーヒーを育て、バナナはその片手間に、シェイドツリー用(日陰用の木)や、自分達の毎日の食物として栽培しているのです。
ブコバでは、農家のすぐそばには、必ずバナナの木がまとまって生えていて、コーヒーの木は、やや離れた場所に植えられています。これにもちゃんとわけがあり、生活の中で出る汚水や生ゴミは、デリケートなコーヒーにはきつすぎるので、直接はかけられないけれど、たくましいバナナは、生ゴミや生活汚水をそのままかけてもびくともせず、栄養を吸ってどんどん増えていくからだそうです。それを知ったとき、バナナはまさに、「巨大な雑草」というイメージがふくらみました。
タンザニアの人は、「バナナとクモは同じだ」と言います。
「バナナもクモも、親は、子供を産み終わると同時に死んでしまう。バナナもクモも、子孫を残すためだけに生き、そして死んでいく定めなんだ。生まれたときから孤児のバナナの子もクモの子も、たった一人でたくましく育って、やがて大人になり、子孫を残した日に潔く死んでいくのさ」
デリケートで、親の手をめいっぱい煩わせて育つコーヒーと、まさにたくましい雑草のような生い立ちのバナナ。日本に渡ったアフリカフェも、ひ弱だった子供時代、たくましいバナナの陰に身を寄せて、照りつける太陽から守ってもらったことを、懐かしく思い出していることでしょう。
ということで、今日は、久しぶりにバナナのことを書いて見ました。
それでは、今日はこのへんで、次回のお便りまでお元気で。
GOOD LUCK!!
BY MUNAWAR



便り37「ブコバ特産、干草製床用カーペット」(2001.9.17)
ジャンボ! アフリカフェフレンドの皆さん、お元気ですか?
日本は台風の後、秋が始まっているようですが、タンザニアは季節の変化を知らせる風が吹き続いており、タンザニアは、このウペポ(風)の到来とともに、これからは少しずつ暑くなっていきます。
さて、今日は、アフリカフェの故郷ブコバで使われている特製カーペットの話をしましょう。ブコバのコーヒー農園はどこでも、エレファントグラス(イネ科)の干草が一面に敷き詰められているので、農園を見学しながらさくさくと踏みしめる干草の感触は、とても気持ちいいものです。この干草は、地温調節、水分補給、栄養補給、といった3つの働きをしているということは、「アフリカフェ物語」の中でもご紹介しましたが、ブコバでは、農園だけではなく、家の中にまで干草のカーペットが敷き詰めらていました。
今年の農園視察の際、去年は味見することができず、心残りだったブコバ名産バナナ酒ルビシをぜひ飲んでみたいと思っていたので、案内してくださったタニカ社のイシャンシャ氏にそのリクエストをすると、「そんなの簡単、ブコバならどこでも簡単に手に入りますよ」とのこと。
イシャンシャ氏の言葉どおり、今年の視察旅行で、最初にコーヒー農園を見せて下さったトーマス家の庭にも、自家製ルビシ作り用の、木の器が無造作に置かれていました。器といっても、西洋風の風呂桶ほどの大きさがあるので、一瞬カヌーかな?と思ったほどでした。残念ながらトーマス家のルビシは全部飲んでしまったところだったのですが、わざわざトーマスさんが小学校3年生の息子さんを近所にお使いにやって、噂のルビシをご馳走してくださいました。ブコバの喜びの酒ルビシは、噂どおりワインに似た飲みやすくおいしいお酒でした。
このバナナのお酒ルビシにも、もちろん感激したのですが、それよりも、招き入れられたトーマスさんの家の中一面に干草が敷き詰められていたことのほうに度肝を抜かれてしまいました。なにしろトーマス家のリビングは、ソファやテーブルが置かれ、壁にはあれこれ思い出の写真や絵が飾られたごく普通の家なのに、床一面に干草が敷き詰められていたのですから。
初めは、「この部屋、干草の倉庫代わりにしていたのかな?」なんて思ったのですが、トーマスさんからの説明を聞いてまたびっくり。なんとこの干草は、ブコバの農家で一般的に使われている床用カーペットだとおっしゃるのです。なんでもこの干草は、コーヒー農園に敷くエレファントグラスでも、牛用の飼料にする草でもなく、こうやって家の中でカーペット代わりに使う専用の草なのだそうです。
このカーペット用の干草は、市場でも1束いくらで特別に売られていて、農家の人でも、この特別の草がない家はわざわざ買って、家の中に敷くのだそうです。それにしても、裸足に触る干草は、ちょっとひんやりして、さわさわとした感触がとっても気持ちよく、トーマスさんから、「干草ベッドは気持ちいいよ。干草を適当に集めて枕の高さも自由自在さ」と聞いたせいか、アルプスの少女ハイジが、おじいさんが作ってくれた干草のベッドで「うわー、ふかふか!」と感激している様子が目に浮かんできました。
トーマスさんの5歳の娘ザワディちゃんも、干草の上で寝るのが好きで、今はベッドがあるのに、わざわざ干草の上で寝るのだそうです。「ブコバの少女ザワディ」といったところでしょうか。トーマス家を後にしてからも、今年はあちこちで、このブコバ特産干草カーペットが目に飛び込んできました。
それにしても、どうして去年はこれに気がつかなかったのか、自分でも不思議です。きっと去年は初めてのコーヒー農園視察ということで余裕がなく、人々の暮らしを飛び越えて、コーヒーそのものにしか目がいっていなかったんだなあと反省しています。
ところで、この干草カーペットの掃除方法、おわかりになりますか?方法はいたって簡単。1カ月に1度ほどの割合で、カーペット(干草)ごと外に捨ててしまい、また新しいカーペット(干草)を敷き詰めるのだそうです。もちろんそれまでに、何かをこぼしたりしたら、そこの草だけがばっと集めて外にぽいっ。この干草は、もちろんまた地面に一体化して堆肥となり、土地の肥やしとなっていきます。
考えてみれば日本で昔から使っているムシロやゴザ、畳にしても、もとは草から作る加工品。草を干すだけで、そのままカーペットとして使い、1カ月に1回新しいものに取り替えるブコバ方式は、もしかしたらとってもコンビニエンス(簡易的)なオーガニックスタイルといえるかもしれませんね。
「わしは、干草の上じゃないと寝られないよ」
とおっしゃるセモニおじいさんの家には、ベッドもなく、何も置かれていない4畳ほどのリビング兼寝室には、ふかふかと気持ちいいい干草がたっぷり敷かれ、部屋の隅には、今年収穫したばかりのコーヒー豆が袋に詰められ、どーんと幅を取って置かれていました。その反対の壁際には、気持ちよさそうに寝そべっていた小さなお孫さんが3人。毛色の変わった私たちが家の中に入ってきたので、びっくりして泣き出してしまいました。
子供たちの泣き声三重奏の中で聞いた、
「コーヒーの好きな干草、牛の好きな干草、わしら人間用の干草。どんな草でも何かの役に立つように神様が作ってくださっているのさ」
というセモニおじいさんの言葉がとても印象に残っています。
私たちは、いまから干草カーペットの世界に戻ることはできないでしょうが、でも、自分の日常の中で自然と上手に付き合っていくことはできるはず。そして、それには自然と競争するのではなく、セモニおじいさんのように、人間も自然の中では、他のすべての生物と共に生かされている存在であるという謙虚さを持つことが大切ではないか・・・セモニおじいさんから、そんなことを教えてもらったような気がしています。
今日は、何気なくブコバの写真を見ていたら、「わしは畑仕事以外のことは何も知らんよ」とにこにこ笑っていたセモニおじいさんの声が懐かしく聞こえてきたので、ブコバのことを書いてみました。
それでは今日はこのへんで。次回のお便りまでお元気で。
GOOD LUCK!!
BY MUNAWAR
 


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