日本三大ドヤ街の1つ 横浜の寿町(ことぶきちょう)は何度か通ったことがありますが、この本を読むまでほぼ何も知りませんでした(=知ろうとしなかった)
敗戦の後、この一帯はアメリカに接収され、その後土地返還を受けた場所に労働者用の簡易宿泊所ができ始め、
高度経済成長などを支えた全国から集まってくる労働者の町となり、日本の戦後史が詰まった町でもあったことなど、知ろうともしないで過ぎてきたけれど、知らなくてはいけないことでした。
寿町は、伊勢佐木町のすぐそば、元町からも近い横浜のど真ん中と言ってよいほどの場所にある横浜の簡易宿泊所街(ドヤ街)
港湾整備や道路に鉄道、様々な近代的な建物・・・仕事はいくらでもあった時代に全国から集まった労働者の町。
バブル崩壊後、仕事が激減し、そのまま経済難民となってホームレスになった人たちも・・・。
現在は、寿町も高齢化が進み、福祉施設が多くなっただけではなく、ゲストハウスも立ち並んできているという様変わりの中で、今もなお福祉の手が届かずにいる人たちがいる現実もこの本で浮き彫りにされています。
この分厚い本(しかも上下巻)は、寿町について1945年から2022年までのことが時代を追いながら書かれていますが、その歴史は、寿町だけのことではなく日本の戦後と近代史と表裏一体です。
18人の執筆陣による様々な角度から寿町を語る文章は、それぞれの寿町の良い環境作りのために活動されてきた記録でもあり、今後どのようにしていけばいいのかについても個々の考えを述べておられており、表紙を開いてすぐに目に入る、発刊に向けての言葉、「歴史を伝え、未来への展望を示す」ための本になっていました。
また、今の時代になってこの本が出たことに大きな意義があるとも思いました。
執筆陣の中には作家で、横浜についての本も書かれている山﨑洋子さんもおられ、ご自身も関わって活動されていたNPOさなぎたちのことをはじめ、横浜労務者殺傷事件やハマのメリーさんやGIベイビーについても言及されていて、深く考えさせられました。
序章では、戦後間もない時期の混乱とその中で女性が翻弄されていかざるえおえない状況が書かれていました。
そこからGIベイビーやメリーさんのエピソードににつながり、この女性は、ご自身ではなにも語らず静かに亡くなられたそうですが、戦後の動乱の歴史が、この方の人生に色濃く反映され、現代の民話ともいえるような存在の方だったのだと感じた次第です。
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山崎さんは、京都生まれの作家さんですが、横浜を愛し、長く横浜に住んで、横浜に関する様々な歴史を掘り起こしながら様々な取材をされ、ディープな横浜の世界を伝えて下さっています。
山崎さんとは、横浜での第一回ティンガティンガ原画展でお会いしたのがご縁で、それ以来、毎年お会いしてお話する機会をいただいています。今年はこの寿町についてのご本についてお話しするのが楽しみです。
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世界の出来事だけでなく、日本の中のできごとや地域の歴史を知り、その経緯があっての現在である、それをさらによくしていくにはどうしたらいいのか・・・と考えて、実行していくのはとても大切ですよね。
私の民話研究の師で、児童文学作家であられたかつおきんや先生(故人)は、
「為政者側の歴史だけではなく、民衆の側からの歴史をひもといていくと見えてくるものがある。
その地域や国の民衆の本音と歴史がつまった民話を掘り起こし、伝えていくことは、現代社会をよくする考察をするにも大切なもの」
と常々おっしゃっていました。
民話の中の話ではなく、リアルな寿町の住人の様々なエピソードや様々な活動が 日本の戦後史、近代史を年代別にまとめながらその時代時代におこなわれてきたことが書かれている『横浜寿町 地域活動の社会史』(社会評論社)は大変貴重なので、大勢に読んで知っていただきたいです。
島岡由美子
☆山崎さんは、最初に出会った時のことを、ご自身のブログ「冬桃ブログ」の中で。「ザンジバルの革命児」記事で、ご紹介くださっています。 昨年のティンガティンガ展の様子は、こちらの記事でご紹介くださっています。
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☆今年も、横浜、名古屋のバラカの自社展こと、ティンガティンガ原画展2023開催します。
4/28~5/7は、横浜@ギャルリーパリで、
5/19~28は、名古屋@妙香園画廊でお会いましょう!
詳細は→こちら ぜひいらしてください。